2019年は「UMPC」(Ultra Mobile PC)と呼ばれる超小型ノートPCの新製品が立て続けに登場した年だった。以前の製品はクラウドファンディングで企画が立ち上がり、そのプロジェクトが次々と成功して出資者の手元に届く──という流れだったが、最近は日本向けの正式販売代理店がこれら製品を市場に流通させることで、クラウドファンディング出資者でなくても店頭やオンラインショップで「普通に購入できる」ようになったことが大きなポイントだ。
今回は19年に登場した超小型ノートPCの各モデルを振り返りながら、その仕様と変化を改めて確認しつつ、なぜここにきて超小型ノートPCの動きが活発になったのか、今後この活況は続くのかを考察してみたい。
超小型ノートPCの定義とは
振り返りの前に、この記事に登場する超小型ノートPCについて改めて定義しておきたい。というのも、「Surface」シリーズのような2 in 1 PCや「iPad Pro」シリーズのようなタブレット、そして「Androidタブレットと外付けキーボード」といった組み合わせも超小型ノートPCとイメージして分類する人も少なくないからだ。この記事で指す超小型ノートPCは、以下の条件を満たすものとする。
- ハードウェアのQWERTYキーボードを搭載する
- サイズ8型台までのディスプレイを搭載する
- OSとしてWindowsを導入する
この条件を満たすデバイスとして、2019年に日本市場で流通した製品は次の通りだ。
中国Shenzhen GPD Technology
- GPD Pocket 2
- GPD MicroPC
中国One-Netbook Technology
- OneMix2S
- OneMix3
- OneMix3 Pro
中国CHUWI
超小型ノートPCはクラウドファンディングだからこそ実現した
まず注目したいのは「超小型」という“独特な立ち位置の製品”を各メーカーが市場に続々と投入できた理由だ。物理的なQWERTYキーボードを搭載してPCと共通の汎用OSを導入したハードウェアは過去にも存在していて、多くのユーザーが使っていた時代があった。90年代の「HP95LX」「HP100LX」「HP200LX」と続く一連のシリーズや、「ThinkPad 220」から始まって「ThinkPad 230Cs」を経て「Palm Top PC 110」へと至る。
しかし、その後はモバイルコンピューティングの主役がクラムシェルスタイルの軽量ノートPCに移行し、上で挙げた超小型ノートPCの先祖たちは個人向け市場から絶えてしまう。
ただ、少数ながらも超小型ノートPCを熱望するユーザーは確かに存在する。中には独自開発に取り組んだユーザーグループもあったが、試作のシステムボードはできたものの、コストなどの問題で断念せざるを得なかった。クラウドファンディングという仕組みが生まれる、はるか前の話である。
持ち運べるノートPCといえば……スペックは似たり寄ったり
現代のモバイルコンピューティングは、デザインは個性的だが 仕様においては“意外”と画一的だ。各メーカー最軽量クラスのノートPCでいうと、ディスプレイサイズは13型前後、重さは1キロ前後、ボディーサイズはA4ファイルサイズで厚さ17ミリ前後にほとんどのモデルが当てはまる。
そういう意味では、モデルとデザインは数あれど、仕様的には「寡占」が進んでいる、もっといえば、個性的なモデルが存在できない時代となってしまった。
これにはメーカーの収益構造も影響している。価格競争が進んだノートPCの開発と販売において、競合製品より少しでも価格競争力をつけるには、1台当たりの利益を減らして販売価格を下げ、その代わり販売台数を増やす必要がある。そのためには「個性的な製品」ではなく「多くの人が受け入れる最小公倍数の製品」を用意しなければならない。このような状況において、一人一人は熱烈なれど圧倒的にユーザー数が少ない超小型ノートPCを従来のPCベンダーが開発して販売するというのは難しくなってしまった。
しかし、クラウドファンディングの登場と普及、そして小ロット製造に対応できる工場(主に中国)の生産技術向上がこの状況を変えた。少数だが確実に購入が見込めるユーザーから資金を調達し、小ロット生産に対応する工場に発注するのだ。
以前、小ロット生産に対応する工場の技術力は心もとなかったが、今ではまともに動くハンディデバイスも作れるまでに向上した。そしてこのようなプロジェクトを進める企業の規模は小さくても済む(企業というより個人的グループに近い場合もある)ため、販売量は少なくても採算が取れる。
こうして「超個性的な超小型ノートPC」が商売として成り立つようになって、長年「使いたくないのにタブレットしか売っていないし」という(私のような)ユーザーが超小型ノートPCを手にすることができる時代となった。
2019年は超小型ノートPCが変容した年に
19年に登場した超小型ノートPCを一通り評価した内容は、同じITmediaのPC USERに掲載している。キーボードのキータッチやディスプレイの視認性(フォント表示の実測サイズ)、使い勝手、ベンチマークテストで測定した処理能力などの詳しい評価内容はそれぞれの記事で報告している。そこで今回は総まとめとして、それぞれのモデルについて振り返ってみる。
中国Shenzhen GPD Technologyのマシン
GPD Pocket 2は従来あった同型モデルの処理能力強化版で、ディスプレイは180度までしか開かず、クラムシェルスタイルで使うタイプだ。
一方のOneMix 2Sも従来モデルの処理能力強化版で、ディスプレイを360度開くとタブレットとしても使える2 in 1 PCでもあった。キーピッチは約16ミリと共通で、5本指を使ったタイピングにはやや狭かったが、それでも3本指タイプなら快適だった。キーボードはアイソレーションタイプでどちらもキーを押し込んでボディーがたわむことなく、押し込んだ指の力を確実に受け止めてくれる。
同時期に登場したGPD Micro PCは、さらに一回り小さい6.4型ディスプレイを搭載し、かつ、キーボードは両手親指打ち前提のキーピッチでポイディングデバイスも立ち姿勢で本体を両手で持って使うのに最適化した配置になっていた。そして本体にはアナログRGB出力や有線LANに加えて、シリアルポートも用意するなど、他の超小型ノートPC(に限らず最新のモバイルノートPCとも)とは一線を画する性格を持つ。実際、PCベンダーもこのモデルに対して「道具」「工具」「産業用」という表現をしていた。
各モデルで共通部分が多い中国One-Netbook Technologyと中国CHUWIのマシン
続いて登場したのがCHUWIのMinibookと、One-Netbook TechnologyのOneMix3、そして、その処理能力強化版といえるOneMix3 Proだ。これらは、同じ8.4型ディスプレイを搭載するだけでなく、本体のサイズやデザインなどもほぼ共通する。
また、ディスプレイを360度開いてタブレットとしても使える。ディスプレイサイズが一回り大きくなったことでキーピッチが19ミリとデスクトップPC向けキーボードと同等となり、キータイプにおける運指は両手5本指を使っても擦れることがなくなった。
一方で本体サイズが大きくなったことで本体の重さもMiniBookで660グラム、OneMix3 Proでは659グラムと7型ディスプレイ搭載モデルのOneMix2Sから150グラム近く増えている。
小さいボディーならではの「キーボード」の話
以前から超小型ノートPCでキーボードをタイプする姿は「両手で本体をもって、親指でタイプする」だった。これはHP95LXから続く“由緒正しい”スタイルだ。
しかし、超小型ノートPCの文化が21世紀になってほぼ途絶えてしまうと、そのスタイルは人々の記憶から消し去られてしまった。そのためか、たとえ7型クラスのディスプレイを搭載した超小型ノートPCでも、クラムシェルスタイルのノートPCと同様に「机の上において両手の五本指を使って快適にタイプする」スタイルで使えることをイマドキのユーザーは要求する。
6型ディスプレイを搭載してキーピッチが横方向11ミリなGPD MicroPCであっても例外とならないユーザーが意外と多い。
そのような、ある意味「むちゃな要望」に応えるべく、7型ディスプレイを搭載するGPD Pocket 2もOneMix2Sもキーピッチは16ミリ(一部17ミリ)を確保した。
先ほども述べたように両手10本全てを使うのは無理だが、両手3本ずつなら指がすれることなくタイプが可能だ。さらに、8.4型ディスプレイを搭載したMiniBookやOneMix3、OneMix3 Proではキーピッチ19ミリを実現した。デスクトップPC用キーボードと同等で10本指を使うキータイプでも指がすれないのは先ほど述べた通りだ。
このように、キーピッチの「値」はデスクトップ相当となったものの、その代償としてキーレイアウトに無理がかかっている。GPDの製品にしてもOneMixの製品にしても「O」「P」「L」「M」から右のキーについてはファンクションキーの上段に追加したキーやスペースキーの脇に設けたキーに移動している。これらのキーには日本語入力で使用機会の多い「−」(長音)や「、」「。」があって、文章入力の“テンポ”を狂わせてしまう。
この問題はボディーサイズに余裕ができたはずの8.4型ディスプレイ搭載モデルでもそのままになっている。そのおかげで19ミリというキーピッチが実現できているわけで、キーボードの使い勝手をキーピッチだけで判断するのが“危うい“と分かるケースともいえるだろう。
ポインティングデバイスにおいても懸念がある。立ち姿勢で本体を両手で持って使うことを想定した超小型ノートPCは タッチパッドに相当するデバイスとクリックボタンをそれぞれヒンジに近い本体奥の左右両側に用意する。
一方で クラムシェルPCのように座って使うことを想定している超小型ノートPCは、ポインティングデバイスをモバイルノートPCと同じように設置する。すなわち、クリックボタンをスペースキーの下に、タッチパッドに相当する光学センサーをキーボードの真ん中にそれぞれ取り付ける。
この配置は13型クラスのディスプレイを搭載したボディーならばホームポジションから手を動かすことなく使えて便利だ。しかし、本体サイズが小さい超小型ノートPCでは、キーボードの真ん中に取り付けたポインティングデバイスの存在が“非常に”気になってキータイプがやりにくくなる。
さらにスペースキー下に設けたクリックボタンは、日本語入力変換操作でスペースキーをタイプしようとして誤ってクリックボタンを押してしまう“事故”が多発する。スタイルだけを寄せてもかえって使いにくくなる典型的な例といえるだろう。
超小型ノートPCは今後も人気を集める?
超小型ノートPCは、新製品が出るたびにディスプレイのサイズは大きくなり、搭載できるCPUの処理能力は高くなっている。これは新製品に求めるユーザーの要望が「従来モデルより高いもの」を求める限りやむを得ないところではある。
最新のOneMix3 ProではCPUにCore i7クラスを搭載した構成も用意している。そのベンチマークテストのスコアはモバイルノートPCのハイエンドモデルに匹敵する。今までパフォーマンスに制約があった超小型ノートPCとしては処理能力に可能性を見いだしたという点で注目できる。
一方で、本体重量もモバイルノートPCに近づきつつある。13.3型ディスプレイ搭載モバイルノートPCで最軽量モデルになると700グラム台がある。
対する超小型ノートPCでは8.4型ディスプレイ搭載モデルで660グラムに達する。100グラムの軽量化と制約のある使い勝手、特にキーボードの使い勝手のトレードオフをユーザーがどのように評価するか。これが超小型ノートPCの今後に大きく影響するのではないだろうか。
100グラムの軽量化で得られるものが多くのユーザーの求めるものであったとき、超小型ノートPCの市場はより大きく拡大するだろう(逆のときは言うまでもなく……)。
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