【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は31日、金融危機の直後以来となる10年半ぶりの利下げに踏み切った。ただ、パウエル議長は「政策のサイクル半ばでの調整と捉えている」と述べ、本格的な追加利下げに慎重な考えも示した。トランプ大統領は「失望した」と早くも不満を表明し、金融市場も大幅な株安で応える。FRBへの追加緩和圧力は当面弱まりそうにない。
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「世界景気の減速と貿易政策の不透明感がリスクだ」。パウエル氏は31日の記者会見で、利下げを決断した理由をそう説明した。企業心理の悪化によって、米国の4~6月期の設備投資は約3年ぶりに前期比マイナスに転落。輸出も停滞が続き、米景気には逆風が吹いてきた。
FRBの利下げは金融危機直後だった2008年12月以来だ。ただ、大恐慌以来の景気悪化と言われた当時とは様相が全く異なる。足元の米経済は拡大局面が11年目に入り、戦後最長を更新したばかり。パウエル氏も「米景気は望ましい状態にある」と主張した。
「政策のサイクル半ばの調整だ。長期的な利下げ局面に突入するものではない」。そのため、パウエル議長は本格的な利下げ局面に突入するのではなく、小幅で短期な利下げにとどめる考えを強調した。「先行きは経済データを注視する」とも繰り返し、早期の追加利下げを極めて慎重に検討する考えを主張した。
驚いたのは、年3回の利下げを見込んでいた金融市場だ。パウエル氏の発言でダウ工業株30種平均は前日終値比で一時478ドル安まで下げ幅を広げた。先物市場が「年内にFRBは追加利下げに踏み切る」との観測も、前日の87%から38%へと半分の割合に急落した。
「市場が求めていたのは、長期的で積極的な利下げ局面に入るということだ。いつもながらパウエルには失望させられた」。パウエル氏の発言から2時間後、トランプ氏も同議長を呼び捨てにしながら、早速ツイッターで強い不満を表明した。
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景気失速は大統領再選の最大の障壁となる。それだけにトランプ氏はパウエル氏の議長解任までほのめかして「1%程度の利下げ」を公然と求めてきた。FRBもトランプ氏の主張通り、結局は利上げサイクルを停止して利下げに転換。金融政策を先読みする市場は、トランプ氏の発言を無視できなくなりそうだ。
「利下げは2%の物価上昇と景気拡大の維持に貢献するだろう」。パウエル議長は記者会見の冒頭でそう強調したが、その金融緩和の効果は簡単にはみえてこない。
例えばドル高だ。10年半ぶりの利下げにもかかわらず、ドル指数は31日に2年2カ月ぶりの高値を更新した。欧州中央銀行(ECB)など主要中銀が追加緩和の可能性を早々に表明し、FRBに先回りして通貨防衛に動いている。米国が仕掛けた金融緩和ドミノは、デフレ圧力にもなるドル高となって、早くもFRBを追い詰める。
追加緩和の期待が薄れたにもかかわらず、米長期金利の指標である10年物米国債利回りも2.01%まで低下した。政策金利(2.00~2.25%)の中間値よりも低く、景気後退の予兆とされる「長短金利の逆転」は解消できていない。パウエル氏が「米景気は堅調」と短期の利下げを主張するのに対し、市場は景気後退のリスクを意識し、長期の利下げ局面を念頭に置いているためだ。
企業心理を悪化させる政治リスクは、そもそも0.25%利下げで対処できるものではない。米中の貿易戦争は出口が見えず、英国の欧州連合(EU)離脱など次なるリスクが浮かぶ。FRBは景気拡大期に踏み切った今回の利下げ、景気減速を未然に防ぐ「予防的措置」と位置づけるが、政治リスクが強まれば経済の悪化は避けられない。
「景気後退が来れば積極的に政策手段を講じる」。パウエル氏はそう強調したが、FRBの利下げ余地はますます狭まった。日米欧は金融危機後の大規模緩和から、政策金利を平時並みに戻す「金融政策の正常化」を断念しつつある。各国とも財政出動の余力も乏しく、次なる危機の備えを欠いたままだ。
2019-08-01 02:48:00Z
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48055510R00C19A8EA2000/
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