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「原料は廃棄物」に人は価値を感じるのか:ファッションデザイナー・中里唯馬がケニアのゴミ集積場で考えたこと - WIRED.jp

ファッションブランドの「YUIMA NAKAZATO」が2023年、ケニアのゴミ集積場での体験にインスピレーションを得たコレクションを「パリ・オートクチュール・ファッションウィーク」で2期連続で発表した。「ナイロビのゴミの山での体験を1回では描き切れなかったんです」と、ブランドを率いるデザイナーの中里唯馬は語る。

中里が訪れたのは世界中の衣料廃棄物が行き着くナイロビのゴミ集積場で、“衣服の墓場”という不名誉な異名もある場所だ。布以外の廃棄物も混ざって腐敗臭が漂い、自然発火による炎や煙が立つその光景を、中里は「この世の終わりを具現化したような」と表現する。

しかし、凄惨さを感じさせるその場所で目を細めると、少し違った風景も見えたと彼は振り返る。「服やプラスチックの色が不思議ときれいに感じられたんです。強い色だけが目に飛び込んできて、宝石のように見えてくる」

その光景が、YUIMA NAKAZATOが23年夏にパリで発表した「COUTURE AUTUMN/WINTER 2023-24」の原点だ。「ゴミは人がいらないと思った瞬間にゴミになります。ならば、その意味を逆に戻すこともできるのではないかと考えたのです」

YUIMA NAKAZATOの「COUTURE AUTUMNWINTER 202324」より。コレクションでは、赤く染まったシルクオーガンジーがさまざまな表情を見せる。

YUIMA NAKAZATOの「COUTURE AUTUMN/WINTER 2023-24」より。コレクションでは、赤く染まったシルクオーガンジーがさまざまな表情を見せる。

PHOTOGRAPH: TAMEKI OSHIRO

ゴミ山を赤で表現する

中里がコレクションで掲げたテーマは「赤」。色のインスピレーションとなったのは、通称「赤富士」と呼ばれる葛飾北斎の「富嶽三十六景凱風快晴」だと中里は語る。「山を見慣れた青や白ではなく赤で描くことで、北斎は富士山の意味を置き換えました。同じことをゴミの山で表現したかったんです」

コレクションを赤く彩るのは、ケニアのゴミの山を赤く変換した画像をプリントしたシルクオーガンジーだ。プリントには、YUIMA NAKAZATOが23年春夏コレクションからパートナーシップを組んでいるセイコーエプソンの新型デジタル捺染機が使われた。この捺染機は従来の捺染と比べて工程数や廃棄物、水の使用量が少なく、発色性や耐擦性、柔軟性も向上したという

10月初頭、東京・代官山で開催されたYUIMA NAKAZATOのエキシビジョンで話を訊いた。

10月初頭、東京・代官山で開催されたYUIMA NAKAZATOのエキシビジョンで話を訊いた。

PHOTOGRAPH: TAMEKI OSHIRO

そんなシルクオーガンジーの軽やかさとは対照的に重みのある存在感を放つのが、不織布を使ったジャケットやコートだった。その原料はケニアから中里がもち帰ったという150kgの古着である(冒頭のゴミ集積場のものではなく、集積場に行きつく前の仕分け済みの衣類だ)。

不織布をつくるために使われたのは、繊維素材をほぐして加工できるセイコーエプソンの「ドライファイバーテクノロジー」。水をほとんど使わずに繊維素材を加工するこの技術は、すでに紙のアップサイクルで実用化されていたが、使用済みの衣服を原料とするのはこれが初めてだったという。この技術を使って古着は細かく裁断され、黒く染色され、50mの不織布シートへと加工された。

セイコーエプソンの「ドライファイバーテクノロジー」を使ってつくられた不織布。「素材としては紙に近い構造をしています」と中里は説明する。

セイコーエプソンの「ドライファイバーテクノロジー」を使ってつくられた不織布。「素材としては紙に近い構造をしています」と中里は説明する。

PHOTOGRAPH: TAMEKI OSHIRO

素材がダイレクトに布になる

これまでマスクや検査着といった使い捨ての用途でしか使われなかった不織布。しかし、中里はその可能性に期待をかける。「いままで技術がなかったからできなかっただけ。ハードウェアを設計できるセイコーエプソンが入ったことで技術がもっと進化していけば、より一般的な服に使われる可能性もゼロではないと思っています」

その環境へのメリットは、古着を活用できるだけにとどまらない。服に使われる布は基本的に、紡糸や紡績、さらに織布や編立のプロセスを経て織物となる。これに対して素材を押し固めてつくる不織布には、そうした加工のプロセスがない。素材がダイレクトに布になるので、エネルギー効率がいいのだと中里は説明する。「例えばセイコーエプソンの技術をケニアにもち込み、その場で再生することもできるかもしれません」

不織布を使ったコート。

不織布を使ったコート。

PHOTOGRAPH: TAMEKI OSHIRO

「原料は廃棄物」に人は価値を感じるのか

とはいえ、技術的に可能であることと、実際に不織布を人々が身にまとうかどうかは別問題だ。中里自身も、ゴミとして無価値になったものを再生しても、そこに消費者が価値を見出せるかどうかはわからないと語る。

「同じ価値ではなく、何倍もの価値を感じてもらわないと再生コストを回収できません。もしかしたら日本で古着を再生するよりも、アフリカのゴミを再生したというビジュアルを含んだメッセージのほうが、最終的に買う人が価値を感じやすい可能性もあります」

わざわざ数千キロメートルの輸送を経て古着を再生するなんて、本末転倒のように思える。一方で、そうしたストーリーのほうが付加価値が高まる可能性も否めない。それは実際に試してみないとわからないことだ。「どう価値を転換していくかが課題だと思っています」

オートクチュールは“F1レース”

今回のコレクションは、中里からの問題提起であり、実験でもある。例えば、いろいろな素材が混ざった古着を材料とする不織布を使った服は、まだ一般向けには販売できない。素材に基づく品質表示をつけられないからだ。大量生産もできないがゆえに、収益化も難しい。

だからこそのオートクチュールなのだと、中里は語る。「オートクチュールはクルマでいうF1レースです。実験的なものを出せる場所であり、技術的な信頼が10年後の乗用車の信頼につながったりする。だからこそ、その実験度合いをとがらせていくことが、オートクチュールのデザイナーとしての使命だと思っています」

(Interview by Daisuke Takimoto)

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